音楽スタジオファイル Vol.44
神保町 Natural Hi-Tech Records
- Natural Hi-Tech Recordsについて
- レーベルNatural Hi-Tech Recordsを立ち上げ後、アーティスト用のレコーディングスタジオとして設立したのが始まり。神保町駅から徒歩3分、BARを併設した10帖のワンルームスタジオは、ライブ感のある音づくりを目指し、自然でみずみずしい音響空間。2016年6月、ロビーが装い新たにBAR『三月の水』としてOPEN。練習後や制作の合間に、いつでも気分転換できる孤高のオアシスだ。掬水月在手、さぁ音楽三昧といこうか。
- Natural Hi-Tech Recordsお問い合わせ
- Natural Hi-Tech Records 公式サイト
千代田区神田小川町3-14-2 漢陽ビル3F
TEL 03-5281-7670
音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 Natural Hi-Tech Records 編
このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。
Natural Hi-Tech Records CEO 林明氏
本日は、バンドマンの人脈が濃いことで有名な、神保町Natural Hi-Tech Recordsの林明さんにお話をお伺いします。まずはスタジオオープンの経緯を教えてください。
12年前程からレーベルを運営していますが、アーティストのレコーディングをする目的で10年くらい前に作ったスタジオです。詳しいオープンの年月はもう忘れちゃいましたね(苦笑)。
1部屋(+コントロールルーム)ですが、いい雰囲気で使い勝手が良さそうですね。
このスタジオ、ここのビル1階の中華料理屋(「漢陽楼」)を設計した人にやってもらったんですよ。
え? スタジオ防音などの設計もできる方だったのですか?
いやいや、全然駄目で(笑)。本人は「BOSE(スピーカー)のイベントもやったことあるから大丈夫だよ!」とか色々言っていたんだけどね、実際に任せたら大変なことになった(笑)。扉と壁を立てて、その上にドラムセットをドーンと置いて「はい完成!」って(笑)。
それ、ただの「囲い」ですね(笑)。なぜ、その業者さんに?
値段も安かったのですが、オープンする前に、設計見積もりを、大手スタジオの施工をしている業者さんにお願いする予定だったのですが、その業者の担当者から「うちがやっているスタジオが、ここのすぐそばに出来るよ」なんて言われちゃって(笑)。
なるほど、そこに発注するの「なんだかな〜」という感じですね。
ですよね。とまあ、色々ありまして…。結局、一度、囲いだけのスタジオで失敗して、そのあと、自分でいろいろ調べて、(中華料理屋の)設計士さんに防音に関する本を渡して、諸々勉強してもらって、なんとか完成させました。一からやり直すわけだから両方とも鬱っぽくなっちゃって(笑)。
サービス業としてあたりまえの事をあたりまえにやりたい
ところで、スタジオのロビーはBARのようですが?
はい、昨年(2016年)の6月から「三月の水」という名でBARとしても営業しています。スタジオ帰りのバンドマンは大体が飲みに行くでしょうから、だったらそのまま、ここで飲めばいいんじゃないかと。二毛作的発想から作ってみました(笑)。
スタジオ後はアドレナリンも大放出ですから、お酒がすすみますね(笑)。
それと、いつでも「いらっしゃいませ」と、利用して頂く方を迎えるスタジオでありたいというのがあります。よく、24時間営業のスタジオで受付に「只今席を空けています。すぐに戻りますので少々お待ちください」なんてプレートが置いてあるじゃないですか? ああいうのはダメですよね。
最近は、接客サービスを強化しているスタジオも増えていますが、飲食店のようなレベルまで、というのはなかなか難しそうですね。
うちが、BARを作ったのはその辺りも理由の一つで、サービス業としてあたりまえの事をあたりまえにやりたいと思っています。
それにしても、スタジオ&BARというのは「新感覚」ですね。
音楽スタジオとして捉えると、少し不思議な感じがするかもしれませんね。みなさん、ここでレコーディング作業すると飲みたくなっちゃうみたいです。他にも、例えばリリースしたバンドの雑誌取材をここでやると、インタビュアーの方も途中で飲みたくなっていますね。当然終わってからですが、速攻飲んでます。(笑)飲んでお互いの関係も進んでもっと良い感じになりますね。
あ、今僕は飲んでいませんよ(笑)。しかし、レコーディング中も飲んでしまいそうです。
もれなく飲めますね。なので、アルコールが影響しやすいリズム隊は「早く終わらせたい!」と言ってますよ(笑)。
それにしても、このBARの雰囲気、センス抜群ですね。
BAR、スタジオ内も青木ロビン(downyのボーカル・ギター)さんの内装デザインなんですよ。downyが、ここをプリプロで使っていた縁もあったので。
おお、バンドマンから多くの尊敬を集める青木ロビンさんのアイデアだったとは!
きっかけは、kilk records代表の森大地さんがカフェを出す際、内装デザインをロビンさんが担当していて、そのやりとりが偶然Facebookで流れてきたので「うちもお願いできないかな?」とコメントしたところ、速攻で「ぜひ、やりましょう!」という話になったわけです。
青木ロビンさんはインテリアデザインを手掛けた経験があるのですか?
彼は、沖縄を中心に飲食店、宿泊施設、住宅リフォームなど内装デザインを手掛けています。そして、元々、自身でも飲食店「jijicafe」、アパレル店舗経営をしています。
週末はBARの方でアコースティックライブをやっています
では続いて、スタジオについてですが、サウンドの方向性はどのような感じですか?
ライブ感がたっぷりある音作りを目指しています。けっこう(音の)反響はありますよ。
スタジオはデッド派かライブ派かに分かれますよね。
最近のレコーディングスタジオはデッドな音作りですよね。デッドなほうが音は扱いやすいと思いますが、うちは完全ライブ派です。
リハーサルとしても利用できますか?
はい、できます。レコーディングが空いているときは、学生さんや会社員の方などにリハスタとして使ってもらっています。この辺は大学と会社が多いですからね。それと、週末はBARの方でアコースティックライブをやっています。
スタジオではなくてBARでライブを?
そうです。もちろんスタジオでもライブできますが、あえてスタジオを楽屋にしています。普通、逆だろうに(笑)。BARの方が雰囲気良いのでおかげさまで、みなさん、とにかく飲みますね。
林さんと音楽の出会いについてお聞かせください。
幼稚園ぐらいの時、母親が鏡台の前で化粧をするとき、かならずカーペンターズの曲をかけていたんです。そこから音楽に興味をもったと思います。
幼稚園で!?よっぽど印象的な光景だったのでしょうね。
いやあ、母親の化粧がカーペンターズ(のカレン)みたいに、目がすごく大きくなっていて(笑)。小学生の頃、友だちから「おまえの母ちゃんスーザン・アントンみたいだな!」と、よくからかわれていました。(※スーザン・アントン = 1970年代から日本でも人気を集めたアメリカの女優・歌手。準ミス・アメリカ。)
カーペンターズを含め、音楽の原点は「母」になりますね(笑)。楽器を始めたのはいつごろですか?
高校生の時にギター部に入って、サザンオールスターズやオジーオズボーン、スコーピオンズとか弾いていましたね。
邦楽からジャーマンメタルまで(笑)。
ジャンルはめちゃくちゃですが、先輩には逆らえませんからね。しかもベース担当…。
本格的なバンド活動もされていたのですか?
浪人生だった18歳の頃、雑誌「Player(プレイヤー)」のメンバー募集を見て応募しました。
プレイヤー誌のメンバー募集コーナー! 懐かしいです。
ですよね(笑)。バンドを組んで、オリジナル曲を作ってライブハウスに出るようになりました。代々木チョコレートシティや吉祥寺の曼荼羅、渋谷La.mamaや西荻窪ワッツなんかによく出ていましたね。
僕自身、演奏一筋の人に憧れますけど、一か所に収まらない(苦笑)
バンド活動からレーベルを作った経緯も教えていただけますか?
バンド活動していると自主企画とかやるじゃないですか、その流れでイベンターみたいな事を3年くらいやっていました。その頃からバンドから「レコーディングやってないですか?」とか「エンジニアやってくれませんか?」とか相談されることが結構あって。やったことなかったけど、あんまり頼まれるから、自分で勉強して手伝っていました。レーベルも同じような流れで「全国流通できませんか?」と相談されちゃったので(笑)。
根っからの「DIY魂」の持ち主ですね。
それは否めませんね。1から何かを始めるのが楽しくて、それは全然苦にはならないです。
ミュージシャンは演奏以外やりたくない人が多いので、貴重な存在ですね。おかげで助かっているミュージシャンはたくさんいると思います。
僕自身は、演奏一筋の人に憧れますけどね。レーベル(会社)内でも、スタジオやったり、BARやったり、イベントやったり、一か所に収まらないなぁ。これは性格じゃないですかね(苦笑)。
それでは最後にNatural Hi-Tech Recordsからメッセージをお願いします。
みんな、どうぞ音楽をやってください。最近は「好きだけどやらない」という人が多いですよね。うちの息子も「ベースをやりたい」と言うから、1万円くらいのベースを買い与えて、演奏も教えてあげて。いざ高校のバンド部にいったら「みんなキラキラしていて中に入れなかった」って言うんですよ(笑)。
キラキラ…、別段、良からぬイメージではなかったと思いますが…。
彼は5歳ぐらいからライブハウスの現場でインディーズのライブを見ていますから、そのキラキラ感が新鮮すぎて馴染めなかったのかな。
幼少期から音楽の泥臭い側面を知っているなんて、ある意味エリート教育じゃないですか?
そうなんですよ。とにかくライブハウスでも部活動でも、どんな形であれ、音楽には変わりはありませんから、みなさんには音楽そのものを楽しんでほしいと思います。そして、目一杯スタジオを使って頂きたいです!
ライブもやっているBAR「三月の水」にもぜひ遊びに来てもらいたいですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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