StudioASPが取材した音楽スタジオ・インタビュー特集(全66回・2014年3月〜2019年10月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

音楽スタジオファイル Vol.47

music studio MAYS

music studio MAYS について
京王井の頭線「東松原駅」すぐそばに2017年3月オープンしたピアノスタジオ。優れた音響設計と湿度調整された快適な空間、職人の手により命を吹き込まれた秀逸なピアノたち。ドイツ・ラインオペラ劇場にて長年使用されていたハンブルグ・スタインウェイを設置したスタインウェイサロン(最大25名)、ヤマハグランドピアノC3を2台設置した3Aなど全5部屋を揃え、個人練習から2台ピアノの練習、管弦等とのアンサンブルやコンサートまでリーズナブルな料金で多様なニーズに対応。
music studio MAYS お問い合わせ
music studio MAYS公式サイト
東京都世田谷区松原5-3-16
TEL:03-6379-5915
営業時間:10:00〜21:00(22:00まで延長可)

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 music studio MAYS 編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

music studio MAYS代表 大瀧祥江氏(左) / 調律師(アドバイザー) 村井太郎氏(右)

本日は東松原のピアノスタジオmusic studio MAYS代表の大瀧祥江さん、調律師(アドバイザー)の村井太郎さんにお話をお伺いします。まずはスタジオ設立の経緯から教えてください。

大瀧今年の3月に東松原駅前にオープンした新しいスタジオです。2011年頃、子育てと家事が一段落したこともあって、フェリス女学院大学の音楽学部に入学しました。そこで「起業家育成ワークショップ」という科目で学んだのが、スタジオ設立のきっかけになったと思います。

そのような科目があるのですね、どういうことを学ぶのですか?

大瀧はい、音楽学部の中で、将来、教室を開いたり起業を目指したりする人のための科目で、とても役立つ授業でした。「起業プランを立てる」という課題で「音楽療法士派遣、若手音楽家支援を行うための音楽スタジオ経営」というテーマでレポートを提出したところ、先生から高く評価していただきました。

在学中にすでにスタジオ設立案を検討されていたのですね?

大瀧在学中はまだレポート段階でしたけど。2015年に卒業してから1年くらい研究を兼ねて、いろいろなスタジオを見て回りました。ちょうどその頃に、専属の調律師でアドバイザーの村井さんに出会い、物件探しなどをご一緒してもらいながら「どういうスタイルのスタジオをつくるか」と1年くらい検討を重ね、結局、卒業してからスタジオ設立まで2年かかりました。

卒業後2年でスタジオ設立というのは、とても順調なペースじゃないですか?

大瀧ありがとうございます。やってはみたものの、まだまだ宣伝方法など至らないところもありますが、頑張って広めていきたいですね。

村井さんは調律師とアドバイザーを兼ねているとのことですが?

村井はい。スタジオ専属の調律師としてピアノのメンテナンスとアドバイスさせて頂いています。

アドバイザーとは、具体的にどのようなことをするのでしょうか?

村井私は趣味でピアノを弾くのですが、様々な音楽スタジオを利用してきた経験から利用者の立場での理想を提案しました。また、ピアノに関してはやみくもに全て新品にするのではく、年数が経っていたとしても個体として良い物でオーバーホールした物を使用してもらうなどのアドバイスを致しました。

スタインウェイは直接ドイツに渡って選んできました

実際スタジオを拝見して、よくぞこれだけの楽器を集められたと内心驚きました。

大瀧村井さんのアドバイスのおかげです。2階にあるスタンウェイもすばらしい逸品です。

村井自らドイツに行って6台の中から選びました。スタインウェイだからといって全て良いとは限らず、個体として良くない物やあまりに状態の悪い物はオーバーホールしても素晴らしい楽器にはなってくれないので、自分の目と耳で確認して最高の物を選びます。

やはり楽器は触らないと良し悪しが分からないですよね。

村井その通りです。信頼出来る現地の業者に頼めば楽かもしれませんが、値段が高額な上に長く使われる物なのに万が一の失敗があったら生きた心地がしませんからね(苦笑)。往復の航空券、宿泊費、それに関わる時間は絶対に必要な物でした。

スタインウェイ以外のピアノもすべて、村井さんが仕入れているのですか?

村井はい。スタインウェイを探す感覚と同じにヤマハも選定してオーバーホールしています。

大瀧ですから、年代物でありながら中身は新品です。

当初は音楽療法士の派遣や演奏家支援という話でしたが、お店としてもすばらしい環境ですね。

大瀧最初はボランティアでの活動を考えましたが、収入源がなくては継続的な支援ができませんから。急がば回れで、良い楽器と環境があれば、きっと皆さんに利用していただけると思いました。

オープンして二ヶ月ですが、手ごたえはどうですか?

大瀧まだまだスタートしたばかりですが、幸いなことに、子供から年配の方まで、このご近所にはピアノを弾かれる方、ピアノに興味をお持ちの方が結構いらっしゃるので、手ごたえは感じています。

事前にこのエリアのピアノ人口をリサーチしていたわけではないのですよね?

大瀧そこまでは考えていなかったです。駅から近くて、手ごろな大きさの物件を第1条件に探していて、なにより立地条件が最優先でした。

村井当初は調律のお客様や紹介での利用で広がり、またホームページを見ていただいてのきっかけで利用者が増える事を想定していました。しかし、幸いなことに近隣にお住まいの方が多く利用して下さり、その利用頻度の多さに正直びっくりしています。

え?スタジオ業界ってそんな状況なのですか?知らなかった (苦笑)

早くも地域に密着したスタジオとして親しまれているわけですね。近年は店をたたむスタジオも多いなか、いいスタートが切れたのではないでしょうか?

大瀧え?スタジオ業界ってそんな状況なのですか? 全然知らなかった (苦笑)。

村井私は長く音楽業界にいますので、昨今のスタジオ業界はまさにそんな状態だと認識しています。音大なども経営難という話が聞こえてきます。

大瀧それじゃ、怖いもの知らずに飛び込んじゃいましたね(笑)。

MAYSさんはきっと運のようなものもっていると思います。

村井東松原以外にもいくつも物件を見ましたが、この物件に出会えたのは幸運でした。通常、普通の生活空間を防音室にすると狭くなって圧迫感が生じるのですが、ここは元が写真スタジオだった関係で少し広めの部屋でした。

なるほど、この余裕のある空間。以前は写真スタジオだったのですね。

村井特に2階は撮影スタジオとして使っていたので天井高がありました。それでも、防音室にしたら理想よりは少し低くなってしまいましたが(苦笑)。

では続いて、お二人の音楽との出会いについてお聞かせください。大瀧さんからお願いします。

大瀧元々、趣味でフルートをふいていましたが、小学5年生の時、みんなで合奏することの楽しさを知ったことが、音楽との具体的な出会いですかね。

えっ!てっきりピアニストだと勝手に思い込んでいました (笑)。

大瀧フルーティストです(笑)。高校生ぐらいまでクラブ活動で音楽をやっていましたが、それ以降は音楽と全然関わり合いがなく、普通に結婚して、子供を産んで、双子なので育児も大変で、家事と育児でいっぱいでほかのことを考える暇がありませんでした。

子育てと家事が一段落したとき、ふと、自分には何もないような気がして

どのような機会で再び音楽の世界へ?

大瀧娘たちが大学に入って、一気に手が離れた時、ふと、自分には何もないような気がして。それで、もう一度フルートを習ってみたいと夫に話したら「だったら音大に行って勉強したら?」とすすめてくれたので、音楽大学に行くことを決意しました。その頃、横浜に住んでいましたので、自宅から1番近かったフェリスの音楽学部に通うことにしました。

理解ある旦那さまですね。

大瀧でも後から聞いた話、私が本当に音大に行くとは思わなかったみたいです(笑)。

そこはやったもの勝ちですね(笑)。学校ではフルート専攻ですよね?

大瀧はい、専攻はフルートです。

スタジオ運営といってもいろいろな形がありますが、なぜピアノスタジオにしようと思ったのですか?

フルートでもバイオリンでも、やっぱりピアノと一緒に合わせた方が断然楽しい!より多くの楽器と合わせられることからピアノスタジオにしました。

みんなで音楽を奏でることの楽しさが原点になっているというのは、すばらしいことですね。

大瀧私自身、試験のときに一生懸命練習したくらいで、常にピアノに関わってきたわけではないのですが、いざスタインウェイが来たら、その美しさや迫力にすっかり魅了されて、まるで自分の子供みたいにかわいくなりました。

そこにあるだけで愛らしいと(笑)。それでは続いて、ピアノに新しい息吹を吹き込んだ村井さんの音楽との出会いについてお聞かせください。

村井私は、姉たちがピアノを弾く姿を見ていた影響が大きいです。親は「男だからやらないだろう」と決めつけていたようですが、自分から弾きたいという気持ちが強くて、自らピアノを習い始めたのが音楽を始めるきっかけです。その後、中学・高校と吹奏楽部に入り、オーボエを吹いていました。

「なにかを直す仕事」というのがすごく面白そうに見えた

ピアノ調律に興味をもったきっかけは何だったのでしょう?

村井高校2年生くらいの時、将来「なにかしら音楽で…」と考えていましたが、正直オーボエで進むのは厳しいだろうと…。そう思っていた頃、たまたま調律師の仕事を見る機会があって、「なにかを直す仕事」というのがすごく面白そうに見えたのです。そこから興味をもち、調律科がある国立音楽大学に進学して、そのまま音楽の道にどっぷりです。 

大学卒業後はすぐに調律師に?

村井はい。国家資格ではないので、変な話「名乗ってしまえば調律師」という世界なので、より実践的な技術は勤め先で勉強しました。

それは楽器メーカーですか?

村井いえ、ヨーロッパのピアノを扱う比較的小さい会社に所属していました。日本にいるとヤマハのピアノを扱うことが多いのですが、その会社ではヨーロッパの色んなメーカーに触れることができました。

多岐に渡るメーカーに触れられたのは、職人として大きな財産ですね。

村井世界的には「ピアノ=スタインウェイ」みたいな風潮がありますが、他のヨーロッパメーカーの良いピアノにたくさん触れることで、さまざまな個性に出会うことができました。このスタジオのスタインウェイとヤマハは、そういった多くのメーカーを見てきたうえで、素材として最高のものを選んだ自信があります。

ところで、ピアノってどれだけ古いものが現役で稼働しているのでしょうか?

村井100年以上前に作られたドイツ製ピアノが、ご自宅で普通に練習用として使われていますよ。

100年もの!? 驚きの耐久性です。

村井ピアノの場合、同種の木材を採用することが多く、同じクオリティのものを作ろうとすると、木材が少なくなって、どんどんコストが高くなってしまいます。なので、現代に近づけば近づくほど、採算を考えてクオリティ的に妥協せざる負えない一面があります。もちろん古ければ古いほど良い、というわけでもありません。技術革新とまでいかないにせよ、現代の技術の進歩があり、そこはバランス感覚ですね。

快適な環境で、厳選した素材と技術の妙を体感できるスタジオなのですね。それでは最後にmusic studio MAYSからメッセージをお願いします。

大瀧ピアノだけに限らず、音楽を奏でるにはとても良い条件の空間だと自負しておりますので、是非とも1度いらしてみてください。体感していただけたならば、その良さがわかっていただけるはすです。 

村井スタインウェイもさることながら、うちのヤマハを弾いていただいたら、みなさまがご存知のヤマハの音のイメージとは一味違うと感じさせる自信があります。良い意味でびっくりされると思います。ぜひ弾きにいらしてください。

確かな自信とメッセージを頂きました。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2017年5月)

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東松原駅(世田谷区)
東松原
京王井の頭線で下北沢から2駅、新代田〜明大前間の橋上駅。緑豊かな羽根木公園に隣接する、こぢんまりと落ちついた世田谷の住宅街エリア。東松原駅といえば、アジサイの夜間ライトアップが有名。毎年、沿線の花が見頃となる6月中旬に実施され、潤みをたたえ咲き競う紫陽花をホームや車窓から楽しめる。
スタインウェイ&サンズ(Steinway & Sons)
1853年設立。ドイツ・ハンブルグとアメリカ・ニューヨークに本社・生産工場をもつ名門ピアノメーカー。ベヒシュタイン、ベーゼンドルファーと並ぶ世界3大ピアノの一つで、国内外の主要コンサートホールに導入されているピアノ。music studio MAYSのスタインウェイサロンでは買収前のスタインウェイ黄金期に作られた1967製A-188(象牙・黒檀鍵盤)を純正部品にてオーバーホールした逸品を常設。
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