StudioASPが取材した音楽スタジオ・インタビュー特集(全66回・2014年3月〜2019年10月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

音楽スタジオファイル Vol.23

北沢三丁目スタジオ

北沢三丁目スタジオ について
東北沢駅から徒歩2分の住宅地に、2009年オープンした超個性派スタジオ。天井高3m、26帖のゆったりとしたスペースに、スタジオ管理人である長谷川氏のこだわりが凝縮。スタジオ利用時間が長くなるほど割引になる料金体系で、バンドリハーサルやプリプロでじっくり音を作りこむのに最適。曲作りや、バンドアレンジ、ミーティングにも活用できる。スタジオ内はお酒を含む飲食、喫煙も可能。多くのバンドやアーティスト達に愛用されている。
北沢三丁目スタジオ お問い合わせ
北沢三丁目スタジオ公式サイト
世田谷区北沢3-2-8 長谷川ビルB1F
TEL:090-2632-9640
受付時間:9:00〜25:00

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 北沢三丁目スタジオ 編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

北沢三丁目スタジオ 管理人 長谷川 幸男氏

本日は北沢三丁目スタジオ、長谷川幸男さんにお話を伺います。こだわりの一室のみというスタジオですが、まずはスタジオの歴史を教えてください。

元々は、この場所で25、6年間、店舗企画のプランニング会社をやっていました。スタッフも4、5人いて、まあ、そのうち一人抜け、二人抜け…、最後は僕一人になってしまいましたが(笑)。

長谷川さんの会社のオフィスとして使っていたのですね。

はい。それで、最後の2、3年は音楽と仕事を平行してやっていたんですけど、アンプを持ち込んで、バンド仲間たちとリハーサルをやったりしていて(笑)、僕自身、仕事のやる気がなくなっていまして、音楽を優先するもんだからクライアントから怒られるようになって、仕事の方を辞めました。ドラムはその当時なかったんですけどね。

スタジオをオープンしたのはいつ頃になるのですか?

ここは僕一人には広いし、スタジオにして欲しいという声が友人から出て来て、2009年の1月からスタジオを始めました。今年で丸7年です。正式に営業開始する前に、フライングで週に2回使うバンドが来てくれたんですが、ボリュームが大きいバンドで、音がバリバリ漏れちゃいまして(笑)。

元は事務所ですからね(笑)。

地下とは言え、吸気口から向こうの家にバズーカのように音をブチあてていたんです(笑)。クレームが来たので、一ヶ月くらい休んで、換気扇とか吸気口の防音工事を自分でやって、通常営業が出来るまでになりました。それでもまだ、一階に住んでいる年寄りのお袋が会話ができないくらい音が出ていました。さすがに申し訳ないと思って、天井の防音を厚くして、通常生活できるレベルになりました。

自分で一からやるとなると作業してみないとわかりませんよね。

それやこれやでバンドの数も増えていきまして、飲み代くらいは出るペイラインに乗ってましたが、この一年くらいペイラインを割っています。ちょうど一年前くらいに、吉祥寺の零細スタジオが閉店して、ウチに流れてきたお客さんもいたんですけどね。このところ状況が変化してきて、考え込んでいる所です。

スタジオは二極化していますからね。

○○○○(某大手スタジオ)さんのひとり勝ちじゃないですか(笑)?

ただ、一方で個性的なスタジオさんも生き残っていると思います。

GOKスタジオさんみたいに、レコーディングスタジオとかエンジニア系の方がプロユースのあるスタジオは生き残っていますよね。近所に、Takagi’s homeというスタジオがあるんですけど、あそこも素人お断りですからね(笑)。

Takagi’s homeさんも取材させていただきました。オーナーの高木さんとても面白い方でした。

面白すぎるくらいです(笑)。うちは、ミュージシャンは金がないのはわかっていますから、まず値段を安く。そして天井が高いので、広い空間を活かした音作りをしてもらえるようにしました。プランニング会社の時に使っていたウッドの棚をそのまま残したら、適度な反響がたまたま出たんですけど、割と音の評判はいいんです。

うちは、ありがちなJCとかマーシャルを置いてない。

一般的な部屋って意外に楽器の鳴りが自然だったりしますよね。

ちょうどいい具合だと思います。天井は完全なデッドで、横の壁がいい反射があるんです。音的には、僕自身、天井の低いライブカフェでやると疲れちゃうんで、天井の高い所はメリットだと思います。

それは間違いないです。

あと、うちのギターアンプは、ありがちなJC(ローランド)とかマーシャルを置いてないんです。JCは個人的に大嫌いなんで(笑)。あれ、全然音にならないし、マーシャルはレスポンスが遅いしね。

ジャズコーラスとマーシャルがないスタジオは初めてです(笑)。

(JCの)120Wとかだと爆音になってだめですね。みんなエフェクター持ってくるんだから、ミニアンプでいいと思う。ウチは最高30W。30Wでもデシベル的には、100Wの60%くらいまでは出ます。でも、みんな、ボリューム5以上で出してくるから、すばらしい音かどうかは疑問なんだけど、箱鳴りのするナチュラルなエフェクトは出てますよ。こだわる人は機材を持ち込んでもらってます。

利用者が、このスタジオの特色になじんでいく形ですね。

商売的にはアウトなんだろうなって思いますけどね(笑)。でも、そういう風にしていると、爆音を出すバンドはあまり来ないから、それはそれでいいかなって思ってます。

徹底してますね(笑)。

なので、こういう音が好きなレゲエやジャズ系の人たちが来てくれます。ボーカルの人はここを使うと他は嫌だって言ってくれたり。

生音寄りのジャンルの人たちに好まれているのですね。

スタジオ内の湿度設定は55%がベスト。

あと湿度設定も55%がベスト。夏場は除湿して、冬場は加湿して、毎日、湿度管理しています。それほど気にしなそうな人でも、普段、湿度55%でやっていて、あるとき湿度40%になっていたら、『今日、音が変なんですけど?』って言ってきたり。

肉体系のパートは気候に左右されやすいので、結構わかるらしいですね。

音の反射も考えていて、コンクリートむき出しの部分も残してあります。そうしないとデッドになりすぎて、ドラムが自分のキックが聴こえなくなっちゃうので、跳ね返させているんです。他にも、梁の所は、卵パックにウレタンフォームを吹き付けたやつを付けて、吸音にしているんです。防音工事中、何度かドラムを叩きに来てもらって反射の調整をしました。だから、見た目はぼろいんですけど、実は機能的にできていますよ(笑)。

部屋を隅々まで知っているから出来る技です。資金だけあってもこうはならないでしょう。

あと、ガラス貼ったら駄目。反射音が痛くてしょうがない。昔、振りを見ながら練習したいのでミラーを貼ってほしいって言われたんだけど、『それは◯◯(某大手スタジオ)に行ってやりなよ。ウチには音作りの時だけ来てくれれば。』って言って(笑)。

ブレませんね。他にもこだわりが?

利用時間が長ければ長いほど、安くなる料金体系にしています。加えて、連続12時間を超えたら、トータルした料金の2割引にしています。2日間ぶっ続けてやってもいい。長いリハーサルや、レコーディング前のプリプロ、そして曲作りやミーティングって、やってると軽く12時間とか経っちゃうんですね。そういうしっかりした音作りをするバンドを応援したいと思っています。

もはや合宿ですね。

合宿スタジオが一番のライバルじゃないかな(笑)? でも、だとしたら向こうの方が安いですけど(笑)。

ここは、お酒もたばこも部屋の中で全部オッケー。

下北沢で合宿スタジオはありませんから、経費など考えたらとても安いと思います。

僕が若いころ、金持ちのボンボンがプライベートスタジオを持っていて、結構な音量でリハーサルをやらせてもらっていたんです。ビールを飲みながらうだうだやっていると、ふと、いいアレンジができるって経験が結構あったんで、みんなにもそういう風に使ってほしいんです。

飲んだり食べたりしながら、じっくり音楽作りの時間を過ごせる空間は魅力ですね。

今の人たちって、音楽学校出が増えちゃったから、みんな譜面読めて、セッションに行ってもすぐ弾けちゃう人が多いんだけど、僕は、それじゃつまんないと思う。教科書通りじゃない音作りをやった方がいいと思うんです。ポップスやっているバンドでも、リハーサル1時間で出来あがっちゃう人たちもいるけど、もうちょっと時間かけてこだわってもいいと思うんですよね。

とことん密にやれと?。

ここは、お酒もたばこも食事も部屋の中で全部オッケー。1日中いたら食べざるを得ないですもんね。一時は12時間リハーサルのバンドに限っては、コンビニ弁当の代わりに、もっと美味いもの食わせてやるからと夕飯を作ってたりもしましたよ(笑)。

長谷川さんって、物事に密に関わるのが好きなんでしょうね。

そうですね。あわよくば混ざりたいくらいです(笑)。以前は、懇意にしているバンドがライブしてるハコの音がひどいんで、僕がPAにアドバイスしに行ったりしてました。曲によってイメージが違うのに、ライブハウスのPAさんって考えてくれない人も結構いるじゃないですか (苦笑)!?

良い意味のおせっかいですね(笑)。

ベードラは抑えようよとか丸い音にしようとか、周波数帯の特性などもスタジオやっている内に分かってきたので、「ここは1KHz抑えて!」とかね(笑)。

ほとんど職人ですね。

イメージの仕事をしてきているから、グラフィックとかイメージで捉えちゃうんのかな。それを数字に置き換えるのが得意なんです。

FMラジオをエアチェックしてたらブルースが聴こえてきた。

では続いて、長谷川さんの音楽との出会いを教えてください。

いまスタジオにあるピアノ、それは僕が幼稚園の頃から家にあったものなんです。そのピアノを姉が弾いていて、姉に、「あの曲弾いて!」とお願いし、そしてピアノの足元で聴いていました。そのうちに僕も弾きたくなったので、小学2年の時から、2年間クラシックピアノを習ったんです。

小学2年生で自発的にクラシックピアノを懇願したんですか(笑)。

でも、先生がヒステリックだったので、それが嫌で辞めたんですけど(笑)、譜面が読めるようになったので、学校でも重宝がられて、いろいろと弾かされました。その後、ギターに出会って、「これは向いているなあ」と感じたんです。

楽器って最初触った瞬間に向き不向きがピンときますよね。

東京音楽アカデミーという、譜面とスモールサイズのレコードが毎月送られてくれる通信教育をやりました。『アルハンブラの思い出』が弾きたくて始めたんですけど、その曲が弾けるようになると、その後の曲からぐっと難易度が上がりまして、当時そこまでやりこむ気はなかったので、そこで通信教育はやめました。それが中学三年生の時ですね。

独学で『アルハンブラの思い出』って(笑)。

姉がジャズやクラシックを聴いていて、その時その時で、感動する音楽があったんですよね。最初は、ピアニストのヴィルヘルム・バックハウスの演奏を聴いて、絵的なものや風景が見えてくるんですよね。それから、高校生の頃には、カール・ベームジョン・コルトレーンを聴いて、やられちゃったり。

クラシックやジャズに傾倒していた感じですか?

時代的には、グループサウンズ全盛の頃なんだけど、僕は嫌いだったんですよね(笑)。今聴くとキッチュさがいいんだけど、当時は“ちゃちい”と思ってた(笑)。

意識高いです(笑)。

高校に入って、家にステレオの良いのが入ったので、レッド・ツェッペリンを爆音で聴いたりしてたんですが、そのうちバイトしてオープンリールのテープレコーダーを買ったんです。それで、FMラジオをエアチェックしてたら、ブルースが聴こえてきて、もう衝撃受けちゃって、そこからは全部ブルースですね。その番組ではジョン・リー・フッカーとかマディ・ウォータースとかサニー・ボーイ・ウィリアムソンとかが、いい所取りで紹介されていて、その選曲が素晴らしかったんだと思います。

大学まででバイトを30種類くらいやっていた(笑)。

クラシックからブルース、渋い若者ですね。高校卒業後は?

美大に入って、カントリーブルースシカゴブルースばっかり聴いていて、バンド組んで、弾けるようにがんばっていましたね。大学はバンドしに行っていたようなもんです。で、在学中に子供ができたんで、中退しちゃいました。時代的に言うと元祖フリーターって感じかな。

結構ハードじゃなかったですか?

今の時代だったらきついかもしれないけど、その当時って、今より生きてくのが楽だったんですよ。もともと大学まででバイトを30種類くらいやっていたんですよね(笑)。最終的にはトータルで44種類まで増えたんですけどね(笑)。

コンプリート癖(笑)。

器用だったので、どこ行ってもすごく喜ばれて、すぐにバイトの役付きにされちゃったりした。そんなんだから若い頃は「世の中ちょろいな」なんて思ったんですよね。でも土木作業の現場では体力がなかったんで最下層でしたけど(笑)。

何にでもトライする性格はこのスタジオに活かされていると思います。

大学はグラフィック系だったんですけど、仕事は設計だったんです。初めて勤めた会社で、店舗什器の制作発注という仕事をしていたんですが、クライアントの会社から店舗デザイナーとして引き抜きが来て、図面なんか描いたことないから出来ない、って言ってるのに、ディレクターから「絶対できるからウチに来い!」と、クライアントの会社に移籍させられたんですよ。それで、いきなり某都市銀行のCIプロジェクトのチーフデザイナーになってました(笑)。やってみると確かに出来ちゃう器用さはありましたね。

やれることのおおよそに手を付けて、断捨離していく感じですね。

でも、銀行の仕事ばかりやるのも嫌だったので、一年で辞めて、一年間ほど就職浪人しました。その時、もう子供が二人いたんですけど(笑)。

勝負しますね(笑)。

設計会社に入りたかったんだけど、「おまえみたいなのだめだよ」って断られたので、それで就職した所が流通コンサルタント会社。設計ができる人に、コンピューターのプログラムを開発してほしいって言われて呼ばれたんですけど、実はその時まだコンピューターは触ったことがなかったんです。店舗診断をして、診断結果から自動設計して、CADを使って出力するプログラムというオーダーでした。そこではそのプログラム開発とマーケティングの仕事もしながら、設計もやらせてもらっていました。

音の空間をイメージして演奏してないと上達しない。

ひょっとして天才肌ですか(笑)?

う〜ん、オリジナルで考える応用力はあるんですよね。記憶するのはあんまり得意じゃないんだけど、物事を図式的に考えたりするのは得意だと思う…、あっ、コーヒー淹れてたんだ!

あっ、ありがとうございます(笑)。そういえばコーヒーにもこだわりがあるんですよね?

僕が飲みたいコーヒーを出しているだけなんですけどね。仕事がレストランのプランニングが多くて、ライブバーを下北沢で半年程やってて、その時は料理を担当していました。

道理でコーヒーもやたらと美味しいはずです。では最後になりますが、北沢三丁目スタジオからメッセージをお願いします。

辛口のことばかり言っちゃうとお客さんが逃げちゃうから、あんまり言いたくないんですけど、あえて言うなら、隙間のある音で練習しないと駄目!

隙間のある音とは?

音がぎゅ〜っと凝縮した「音の隙間がなくなってる状態」が気持ちいいって言う人が多いけど、本来バンドは「音をどう掛け合わせるか」というのを求めるべきものなのだから、音が団子状になっているような環境はダメ。抜けのある音で、空間をイメージしながら演奏してないと上達しません! 6帖の部屋で、4人で爆音でやってるなんて、百害あって一利なしです。

せっかくですから、音の抜けや隙間の楽しさを味わってもらいたいですね。

でも、下手な人はそれだと不安らしいです。シビアな音作りすると、急にびびって演奏できなくなるんですね。だからそのためにこそ練習してほしいです。

愛ある叱咤ありがとうございます。本日は貴重なお話をありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2016年2月)

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東北沢(小田急)

北沢三丁目にある小田急線の駅(新宿から5駅)。閑静な住宅街エリアで、駅北側の都道420号鮫洲大山線に沿って「東北沢商店会」が伸びている。かつては江戸六上水の一つであった三田用水(玉川上水の分水)が笹塚から南下していた。2018年度に駅の地下複々線化工事が完了。
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