音楽スタジオファイル Vol.30

幡ヶ谷 SUR SOUND STUDIO

SUR SOUND STUDIOについて
オープンリールのアナログ録音にも対応した上質なレコーディング環境と確かな技術、ミュージシャンの個性やクセを最大限に活かしながら、創作活動におけるメンタル面をも考慮した的確なアドバイスで、プロ・アマ、世代やジャンルを超えて幅広い支持を得ているリハーサル&レコーディングスタジオ。自然でクリアな音響と居心地の良さを両立した天然木の音楽空間では、「古き良きもの」が「新しさ」と手を取り合い、生命感にあふれたサウンドが生み出される。
SUR SOUND STUDIO お問い合わせ
シュールサウンドスタジオ公式サイト
渋谷区幡ヶ谷2-20-8 アルム幡ヶ谷B1
TEL:03-3378-1555
営業時間:12:00〜26:00

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 SUR SOUND STUDIO編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

SUR SOUND STUDIO【左】エンジニア:谷 栄治 氏【右】代表取締役 永島 理一 氏

本日は幡ヶ谷SUR SOUND STUDIO代表の永島さんと、エンジニアの谷さんにお話をお伺いします。ProToolsのデジタル録音からオープンリールのアナログ録音にも対応したスタジオとしても有名ですが、まずは設立の経緯を教えてください。

永島現在のスタジオの形に完成したのが1997年、その10年くらい前から、このビルの1階で運営していました。僕は、12年前(2004年)に前代から受け継いで代表に就任したので、正直詳しくはわからないんですよ…(笑)。そのあたりの歴史については谷さんの方が詳しい。

エンジニアの谷さんは最初から在籍されていたのですか?

最初からいたり、いなかったり、ですね(笑)。フリーランスでしたので。

30年近い歴史があるのですね。その昔はビルの1階にあった?

はい、同じビルの今の幡ヶ谷食堂の裏側に入口があって「テイクスタジオ」という名前でした。スタジオ経営の年月とともに、段々とバンドの音量が上がってきて、2階に響くようになってしまって、ちょっと苦情が出てくるようになったんですね。

バンドの音量、やっぱり上がってきちゃいますね(笑)。

その頃、ちょうど地下B1に入っていたフレンチレストランの後に入った写真スタジオが退去した時期で、大家さんから「地下なら音も大丈夫だろうから、下に移ってやってもらえないか?」と言われて、地下に移ることになりました。

地下の方がスタジオとしては使いやすそうですね。

そうですね。1階よりも地下の方が広いし、苦情も気にせず、安心して腰を据えてやりましょう、という事で。地下に移った後、2代目のオーナーが「SUR SOUND STUDIO」という名前に変えました。

天然木材の適度な残響音で良い鳴り心地

スタジオの壁、天井の木材が美しいですね。

永島全スタジオに天然木材を使っています。デッドな音響を重宝するスタジオもありますが、うちの天然木材は適度な残響音があって、鳴りが心地良いと思います。

適度な残響は、ミュージシャンの特性を活かしてくれますよね。

はい、アナログな音、アコースティック系の方は気に入ってくれる方が多いです。

永島それに、音の抜けも良く、各楽器がバランス良く聴こえますし、天井も高いので低音もすっきりしています。

そのあたりは吸音材もしっかり入っているので。

永島僕自身はあんまり詳しくないんだけど(笑)、谷さんや前のオーナーが詳しい方でした。

ちなみに、スタジオの木材は何を使用してるのでしょうか?

永島Aスタは杉、Bスタは杉丸太の切り落とし、Cスタは檜です。

もはやリゾートの別荘のような雰囲気ですね(笑)。

永島それは言えますね(笑)。

ミュージシャン本来の個性や手癖を消さない

エンジニアの谷さんにお伺いします。レコーディングで心掛けている部分はどんなところでしょう?

手を加え過ぎて、ミュージシャン本来の個性や手癖を消し去ってしまわないことです。クリックに合わせられないけど、かっこいいミュージシャン、いっぱいいるじゃないですか? バンドでもテクニックは無いけど、すげえかっこいい、っていう。そういうミュージシャンの演奏の魅力を活かせるエンジニアって意外に少ないんですよ。

どうやれば、そのミュージシャンの魅力を引き出せるのですか?

良い意味でいい加減さを知っていて、全員が納得するものを作れればいいんですよ。クリックはスタジオミュージシャンが仕事として使うものですが、アマチュアでライブバンドなのにクリックを使いたがることがあります。でも、どうしてもサビで走ったりしてうまくいかない。

よく聞く話です。

そういう曲は本来「サビで走る曲」なんだと思うんです。BPM(テンポ)がサビで変わるべき曲かもしれないのに、1つのテンポに収めようとして、合わせられずに何回も録り直して、結局、ミスはないけど疲れた感じの楽曲に仕上がってしまう…。

それでは曲が死んでしまいますね。

クリックは本来エンジニアがミュージシャンにお願いして使ってもらう物だと思っています。その昔、プロ用のレコーディング機材でPCM-3348というMTRが出てきた時、そのMTRにサンプラーがついていて、例えば「1番のサビを2番に貼ってくれ」という注文をディレクターがするようになった。でも、クリックなしの演奏だと尺(演奏の長さ)が違うから貼れない、だからクリックに合わせて演奏してください、という、こちらからミュージシャンへのお願いからはじまっているのです。

オーディオ貼り付け作業の元祖ですね。

今はProToolsで、音質を気にしなければ、タイムストレッチ、コンプレッションで尺もテンポも自由自在に簡単に貼れますね。ProToolsのレコーディングでは細部まで音が波形で見えてしまうので、それで落ち込んじゃう人もいます。むしろライブバンドは、多少間違ってもいいからベーシックな部分は1発で録って、歌やギターソロを後でダビングするのがベストだと思います。

ライブが魅力のバンドがクリックや録音技術で本来の輝きを失ってしまうのはもったいないですね。

去勢されたようなものだもの(笑)。

 

SUR SOUND STUDIOではオープンリール(OTARI MX-80-24)でアナログ録音が可能です。アナログの魅力についても語っていただけますか。

やっぱり音の深みです。

録音におけるデジタルとアナログの違いはどのあたりですか。

デジタル録音は、近くの音はハッキリ録れますが、遠くのものは鮮明に録音できない、という弱点があります。いろいろ工夫していますけど、デジタルはいまだにその点は苦手ですね。一方、アナログ録音だと、遠くにある物は遠くにある状態でくっきりと聴こえてくる。

なるほど、アナログの特長の一つですね。アナログレコーディングを希望される方はいますか?

永島部分的にアナログにこだわる方はいますけど、最初から全てアナログというのは、今はほとんどありませんね。全部デジタルで録ったのを、1回アナログに流し込んで、またデジタルに戻す、みたいなことはありますが。

現実的に、(アナログの)テープ録音はコストがかかります。ハイスピードの76cm/secで回すと、一本で15分しか録音できないから、録れる演奏は実質3テイク。録り直したいとなると「どのテイク消す?」ということになる。デジタルに慣れている人は、「え、消すの?それは嫌!」ってなることが多い。なので結局、再録音用に、もう1本テープを出すしかないけど、テープ自体の価格も高いのでふんだんに使えないんです。

デジタル録音の感覚で、失敗も含めた全テイクをテープで録っていたら膨大な量になってしまいますね。

それに色々と手間がかかりますからね。鉄道で言えば、蒸気機関車を走らせるようなもので、前日から調整、動作確認して、調子を安定させてからじゃないと機能しないんですよ。最近では毎日動かしている訳ではないので、1週間ぐらい前から少しずつ動かして、機械を慣れさせないといけない。

スマホではアナログの良さまで再現できない

それで、今ではアナログ録音の機材を置いてあるスタジオがほとんどなくなってしまったのですね。

そう思います。それに、そこまで気合いを入れた所で、リスナーがどこまでわかってくれるんだ?という問題が出てきますよね。今や、良いオーディオで聴く、音にこだわるリスナーはほとんどいないと思うんですよ。スマホで聴く音ではアナログの良さが再現できないので、アナログ録音が評価されることはないですし…。

作り手にとってはリスナーの音楽視聴環境など、悩ましいところです。

まあ、そのあたりはミュージシャンによって考え方があると思うんですけど。音楽に限らず、古き良きものを守っていくにはコストがかかりますよね。アナログレコーディングは今となっては贅沢なものなんでしょうね。

それでは続いてお二人のことについて教えてください。まずは代表の永島さんから、どのような経緯でSUR SOUND STUDIOの代表になられたのですか?

永島このスタジオに入る前は普通に働いてました。前オーナーがスタジオを譲りたいという話があって、知り合いと3人で経営することになったのですが、色々あって、結果的にその4~5年後、僕が1人でやり始めることになりました。

バンドなどの音楽活動もされていたんですか?

永島はい、ニールヤングが大好きで、高校の頃からニールヤング系のバンドをやっていました。ピンクフロイドとかレッドツェッペリンとか70年代のヘヴィーな音にもハマって…、とまあ、アコースティックからハードな音楽まで、今でも現役でやってます。

次に谷さん、音楽との出会いから少し詳しく教えていただけますか。

小学校3年生ぐらいの時に、近所のお兄さんにビートルズを聴かせてもらったら「なんだこれ!」って…。それから小学5年生ぐらいの時に、姉貴がビートルズのレコードを買い出して、それを聴かせてもらうようになりました。

ビートルズ育ちなのですね。

中学校になって、友達がKISSとかQUEENが好きだったので、それらも聴き込みました。中学3年のときにエレキベースを買って、高校に入ってからは、ジューダス・プリーストとかレインボーのコピーバンドをはじめました。

これまた激しい方に振れましたね。

ですよね(笑)。でも、同じ時期に、友人から「管弦楽やらないか?」と誘われまして、コントラバスも始めました。当時は譜面がわからず苦戦していたところ、「管弦楽をやれば譜面も覚えられるし、コントラバスもエレキベースも弦の配列一緒だからさ」と言われ(笑)、管弦楽部に入部しました。

メタルと管弦楽の同時進行(笑)!

はい。でも、部活さぼってロックバンドばかりやってました。定期演奏会の前に必死になって練習していた感じです(笑)。高校卒業後、音響録音系の専門学校に進んで、この業界に入りました。

エンジニアとして影響を受けた人はいますか?

やっぱり、ボブ・クリアマウンテンはすごいと思いますね。1番最初にYAMAHAのモニタースピーカー「テンエム(NS-10M)」を使った人です。この人が使ったことで、世界中に業界標準のモニタースピーカーとして広まったと言われている。影響というより、ただただ、その偉大さを感じます。

ジャンルや世代を超えた交流点みたいなスタジオ

それでは最後になります。SUR SOUND STUDIOからのメッセージをお願いします。

録音に関しては、僕らはあらゆるサウンドに幅広く対応できるので、プロ、アマ、パンクバンドからレコードメーカーの演歌歌手までいらっしゃいます。ここは、ジャンルや世代を超えた交流点みたいなスタジオです。

永島音楽業界のミニチュア版のような場所ですね。若い子にとっては雲の上のような人たちと同じ目線でコミュニケーションできる場となっています。

ミュージシャンにとって貴重な交流の場所でもあるのですね。

永島はい、自信を持って居心地の良い空間だと言えますので、ぜひ1度、音を出しにきてください。広いロビー、ホットコーヒーやお茶の無料サービスなど、できる限りくつろいで使っていただけるように努めています。新宿からも割と近く、駐車場3台分用意しています。使い勝手の良さを体感しに来て欲しいです。

本日は貴重なお話をありがとうございました。

幡ヶ谷SUR SOUND STUDIO公式サイトはこちらから。

インタビュー&ライター 浅井陽 BLOG / Twitter(取材日 2016年6月)

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幡ヶ谷(渋谷区)
幡ヶ谷
新宿、中野、代々木に隣接する渋谷区の街。京王新線で新宿から2駅、初台と笹塚の間に位置し、甲州街道の真下にホームがある。ミュージシャンやプロDJも多く居住し、巨大ターミナルとステージ(非日常)のすぐ傍らで音楽生活と音楽制作が行われているエリア。
OTARI MX80-24
業務用録音機器メーカー、オタリ株式会社が1986年に発売したアナログ24トラックマルチトラックレコーダー。録音メディアに2インチ(約5cm)幅のオープンリールテープを利用する。デジタルMTRが登場するまでプロレコーディング現場の定番MTRの一つだった。
SONY PCM-3348
1990年にソニーから発売されたデジタル48トラックマルチレコーダー。タイムコード、アナログ用トラックやサンプリング機能を搭載したプロスタジオ定番のMTR。ProToolsが定着するまで利用された。2004年にサポート終了。当時の定価は3,800万円。
Pro Tools
米Avid社が発売している業界定番のオーディオレコーディングシステム。Mac、WIndowsコンピューター上で稼働するソフトウェアを基本に、必要に応じてソフトウェアやハードウェアを追加してシステムを構築するため、自宅録音からプロ仕様まで幅広い用途に対応する。
クリック
レコーディングの際に利用する演奏の基本テンポとなるガイドリズムの呼称。メトロノームのようにアクセントのついた四分音符(または八分音符)に合わせて演奏することでリズムを安定させ、ダビング作業を可能にする。クリック音はカウベルやクラベスなどの音が好まれる。ドンカマとも。