StudioASPが取材した音楽スタジオ・インタビュー特集(全66回・2014年3月〜2019年10月)のアーカイブです。掲載情報は取材当時のものです。

音楽スタジオファイル Vol.62

三軒茶屋 kivori studio

kivori studio について
2003年、ギタリスト由田直也氏(ex.Valentine D.C. / RED SUN)のプライベートスタジオとして創業。ProToolsHDXとプリアンプやエフェクター等のアナログハードウェアを完備。由田氏のバンド愛に溢れたスタジオでは、多くのバンド録音経験によって磨き上げられたエンジニア技術が惜しみなく注ぎ込まれる。妥協せず音源制作したいミュージシャンの理想に寄り添い、格安ながらも高音質なレコーディングを実現。ミックスダウンのみ、マスタリングのみの利用も可能。三軒茶屋駅より徒歩3分。
kivori studio お問い合わせ
kivori studio公式サイト
世田谷区三軒茶屋1-33-19 ケイオーハロービル301
TEL:03-6805-4440
営業時間:ご指定時間で受付中

音楽スタジオの中の人に話を聞いてみた〜 キボリスタジオ 編

このコーナーは音楽スタジオでミュージシャンをサポートしてくれる「中の人」に突撃インタビューして、色々お話を聞いてしまおうというコーナーです。中の人の皆様、ご協力ありがとうございました。

kivori studioオーナー 由田直也氏

本日は、三軒茶屋のレコーディングスタジオkivori studioオーナーの由田直也さんにお話をお伺いします。オープンはいつですか?

ここ(三軒茶屋)でのオープンは2011年8月ですが、スタジオは練馬、中野と移転してきました。

それでは、スタジオ創業までの経緯をおしえてください。

2003年、自分のバンドの音源制作のため、練馬にあった自宅の2LDKマンションに遮音シートを貼り付けて、レコーディングの作業部屋にしたのがはじまりです。

となると、スタジオを運営されて16年目ですね。バンド活動からスタジオ事業を始めることになったきっかけは?

バンド活動が停滞していた時期に「自分にできることは何か?」と考えることがあって、だったら、僕自身がエンジニアとなってバンドやミュージシャンのサポートをしてみようと思いました。

レコーディングやミキシングに関する技術はどこで習得したのですか?

自分のバンドを録ってくれていた方々が一流のエンジニアで、レコーディングやミックス作業をするなかで、音源制作の要であるエンジニアの仕事に興味をもち、基本的な技術や知識を身につけました。さらに、音源の流通までバックアップするレーベル「キボリレコード」を立ち上げました。

バンド活動で培ったノウハウを新たな事業につなげていったということですね。中野の移転はどういった流れで?

とある音楽事務所の方が、僕のレコーディングを気に入ってくれて練馬のスタジオを長く利用してくれていました。その方に「もう少し、それらしい所で展開したらどうですか」とアドバイスをもらって(苦笑)。それで、2008年に中野に移ることになりました。

中野のスタジオは、どのようなスタジオだったのですか?

もともと防音室がついている音楽家ばかりが住んでいるような物件で、練馬のスタジオに比べてかなりグレードアップしました。リビングにアビテックスの防音ブースを追加して、歌録りできるスタジオとしてレコーディング業務を開始しました。

防音つきの物件となると運営費もグレードアップですね…。

はい、家賃も相当でしたね(苦笑)。でも、ドラム録音まではできなかったので、ドラム録りのときは、毎回ドラム機材をスーツケースに詰め込んで外部のリハーサルスタジオを使っていました。

2011年、全財産かけて自分を貫く気持ちで一念発起

なかなか居住用マンションでドラムはむずかしいですよね。三軒茶屋への移転はドラム録音が念頭にあった?

2011年にはいって、このビルB1のライブハウスHEAVEN’S DOOR の堀さんから、「上のスタジオが空いたけど〜」と連絡をもらったのがきっかけです。自分のところでドラムも録音できる場所をずっと探していましたし、震災の影響で1カ月くらい予約がキャンセルになっていたので、移転するならこのタイミングしかないと、決意しました。

でも、そのころは震災もあって、世間は自粛ムードでしたよね。

もちろんです。でも、そういう時だからこそ、全財産かけてでも自分のやりたいことを貫こうという気持ちで、機材一式をそろえ、一からやり直すつもりで一念発起し、現在にいたります。

練馬、中野、三軒茶屋と移転を経て、順調にスケールアップされてきましたが、スタジオ運営のモットーをおしえてください。

看板にも書いていますが「very low price, but professional」をモットーに、「融通がきく、バンドマンに優しいスタジオ」です。僕自身がバンドマンだったので、彼らの要望や事情をよく理解しているつもりです。多くのバンドには予算が少ない、でも妥協せずに音源制作したいわけですよね。

はい、シンプルに言うと、そういうことだと思います。

業界全体のスタジオ利用料金が安くなっているとはいえ、大きなスタジオでレコーディングすれば、それなりの料金がかかります。でも、僕自身がバンドのレコーディングで実践してきた、プライベートなスタジオでPCをメインにするレコーディングであれば、あまり予算をかけずに妥協なく制作に向き合えます。

低価格というのはバンドマンにはうれしい限りですが、スタジオの経営的にはどうですか?

僕は「商売優先」という考えはもっていません。延長料金などもできるだけ負担のかからないように対応します。バンドにとって「良い作品」が録れることが、めぐりめぐって、僕自身やスタジオの宣伝になるのだと信じているので、バンドに寄り添ったレコーディングを提供することに集中しています。

由田さんの愛がつまった、バンドマンにとって理想のスタジオですね。

おかげさまで、友人、知人のミュージシャン、後輩バンドからレーベル時代の凄腕の先輩まで、たくさんのバンドに使っていただいています。

バンドを解散、停滞しているうちに貯金が底をついた(苦笑)

つづいて、由田さんのご出身と、音楽の出会いをおしえてください。

愛知県一宮市の出身です。子どものころ習っていたエレクトーンの先生に「やりたい音楽を見つけなさいね」と言われて、いろいろ探しているなか、カーペンターズを聴いたときに胸がキュンとしました。音楽に興味をもったのはその時だと思います。それからというもの、ラジオからの音楽をエアチェックするために、カセットデッキの前でスタンバっていました(笑)。

カーペンターズは心にやさしい名曲揃いですね。聴きはじめたのはいつごろですか?

中1あたりですね。いろいろな音楽を聴いていくうちに、弾き語りをやってみたくなってビリージョエルの楽譜も買いました。でも、歌が下手すぎて、挫折しましたね…(苦笑)。高校に入ってからは、マイケル・シェンカーに衝撃をうけてギターに転向しました。

エレクトーン、カーペンターズときて…。

ええ、バリバリのメタラーになりました(笑)。当時、流行っていたLAメタルにもどっぷりはまりまして、速弾きをむちゃくちゃ練習しましたし、当然フライングVも買いました。思い起こせば、高校時代はギターを練習しまくっていました。

速弾きで駆けぬけた青春時代!高校を卒業したあとは?

名古屋の大学に進学してから、本格的にプロを目指してバンド活動を開始しました。思い切って、大学を休学して大阪へ移り住み、バンド(Velentine D.C.)を結成して本格的な活動を始めました。ライブツアーも敢行しました。それから6年ほどの活動を経てデビューが決まり、東京に上京してバンドでの生活をスタートさせました。

プロとして音楽活動をされていたのですね?

はい、メジャーでリリースして、バンドで給料をもらいながら生活していました。でも、バンドを解散して3年くらい停滞しているうちに貯金が底をついて(苦笑)。進むべき方向を考えなくてはならない人生の転機を迎えました。それで、公庫からお金を借りて起業して、最初のスタジオを作る話につながります。

バンドマンの気持ちはよくわかっているつもりです

メジャーでの活動を経てスタジオ経営と、バンドマンの経験を活かした理想的な歩みだと思います。これからの展望はどのように考えていますか?

じつは、そこが悩んでいるところで…。16年前にスタジオを始めたときに掲げた目標はクリアしてしまった。子どものころから描いていた、音楽の中で生活していくという理想も、たくさんの人との出会いに恵まれたおかげで実現することができた。裸一貫、夢を追いかけて突き進んできましたが、これからのあり方を見つめたとき、つぎはどうしたらいいか、迷いますよね…。

この音楽業界で、いくらなんでも贅沢な悩みですよ!?

そうかもしれません。でも、50歳を過ぎた自分が、60、70になったときにこれまでと同じように、ロックバンドのレコーディング作業ができるのか?ということを考えると、体力的にもそうはいかないですからね。いろいろ考えてはいるのですけど…。

たしかに、誰もが避けては通れない問題ですね…。たとえば、今後どういう可能性があるでしょうか?

よくあるのはマスタリング業に徹するとか、ですかね。レコーディングは現場作業が多く、ハードですが、マスタリングは肉体的な負担は少ないですから。ただし、マスタリングは最終的な仕上げの重要な部分ですので、もっと信頼を築いていかなくてはならないポジションです。

由田さんのことですから、さらなるモチベーションを見つけて新しいステージに進んでいくのでしょうね。それでは最後に、kivori studioからメッセージをおねがいします。

自分がバンドマンだったので、バンドマンの気持ちはよくわかっているつもりです。みなさんの希望を把握し、一緒に目指す音を作れるように努めてまいります。エモーショナル、エッジー、ラウド、ハートフル、オーガニックなサウンドが得意です!ぜひ、一度ご利用ください。

ミュージシャンの理想をともに作り上げるkivori studio。より多くのリスナーに作品を届けて、共有していきたいですね。本日はありがとうございました。

インタビュー&ライター 浅井陽(取材日 2019年6月)

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